大広告時代

主に広告について思うことを語ります。その他ネット文化的なことなど。

一時代を築き上げたVOCALOID

今や国民的アーティストの米津玄師は元々ニコニコ動画から有名になったことは言うまでもない。当時は『ハチ』という名義で数々の名曲を生み出していた。

 

『結ンデ開イテ羅刹ト骸』が爆発的ヒット(「バズる」という言葉は当時無かった)、それからもどこか独特な生死感といったオリジナリティ溢れる世界観を繰り広げ、続々とヒット作を生み出した。

 

 

その背景にはかの名曲『メルト』があったことを説明しなければならない。

 

まず最初期のボーカロイドは、初音ミクによる「歌ってみた」など実験的で、新技術おもちゃ的な用途に収まっていた。

 

 

その様なVOCALOIDタグのついた動画が続々と投稿され始めたのは2007年。早くもその年内程なくして、続々とオリジナル曲が目立ってくる。

これには先立っての「電子の歌姫」という初音ミクに対するキャラクターの確立が大きく影響していると考えている。なんとなく曖昧な形で存在する初音ミクのイメージを、オリジナリティある各々の解釈を持って表現するような部分があった。

これは東方が同人文化として大きく育った背景と似ている。一本の共通する線の上で、オリジナリティを出しやすい基盤があったということだ。

 

 

 

そして2007年末、ニコニコボカロ創世記の代表曲といって差し支えない『メルト』が投稿される。

このアルバムアートワークはryo氏による「無断転載」であったのはご存知だろうか。逆にこれを縁にイラストレーターの119氏はsupercellに加入することになったことは、昨今のTwitterでの騒ぎを見るに今では少し信じられないような出来事である。

 

 

メルトの登場辺りからVOCALOIDの存在意義が大きく変わる。

簡単に言えば、「楽器」の一つとして使われるようになったのだ。

ソフトウェア技術の発展に伴いDTMのレベルとハードルが下がっていく中、唯一欠けていた「ボーカル」ソフトがある日現れたということだ。

作曲能力は十分にあるのに、環境のせいであと一歩満足には曲をつくることが出来なかった大量のアーティストをVOCALOIDは救った。

 

その後はVOCALOIDにしか出来ない表現といったことも求められた。

人間には出来ない芸当の代表として『初音ミクの消失』を始めとした「早口」な曲がある。また基本的に「高音」であることも特徴だろう。

 

 

 

こうしてVOCALOID同人音楽文化として完全に成立した2009年半ば、『裏表ラバーズ』が投稿される。

 

 

先程キャラクターといった要素について述べたが、wowaka氏の作品はその逆を行くスタイルであった。

wowaka氏のサムネイルは全ての作品が白黒2色の幾何学模様で描かれている。タイトルにこそしっかりと記述として存在があるものの、そこに初音ミクの姿はないのだ。

アートワークにキャラクターが描かれていない作品は当時のみならず今でも珍しい。ニコニコ動画はコメント機能によるSNSの側面が強く、基本的にはこのサムネイルもコメントしやすい見所であるからだ。

 

 

 

それからの歴史はここでは省略する。数々の名曲シーンはこの記事では書ききれない。

 

 

 

そしてかつての時代を築いたボカロPたちの何人かは、約10年のうちに活動をリアルの場に大きく広げた。

 

記事冒頭で述べた米津玄師は昨年遂に紅白にまで登場した。supercell(それにEGOISTも)はやなぎなぎを始めに自分のみならず数々の天才を世に送り出した。ClariSを一躍有名にした『irony』は、googleのCMとタイアップし初めて初音ミクが公の電波に乗せたkz氏が作曲である。

じん、LastNote.の両名は曲のみに収まらない、今や当たり前のメディアミックスの文化を成立させた。

単身ではなく「歌ってみた」アーティストとのコラボGARNiDELiA、REOLの活躍も凄まじい。

そしてwowaka氏率いたロックバンド「ヒトリエ」の活躍も今後決して忘れることはできない。

 

 

このようにニコニコからメジャーデビューを果たしたアーティストは気づけば数多く、ネット音楽はマイナーなオタク文化に収まらず日本の音楽シーンに欠かせない存在となった。

 

 

 

 これからのネット音楽文化の、廃れることのない永続的な繁栄を切に願う。